完璧だと思い込んでいた第一メッセージの罪
マッチングアプリで「メッセージ術」について語るなんて、正直なところ、私が一番失敗した人間です。それでも敢えてこの話をするのは、同じような失敗を繰り返す人たちに、少しでも役立つ教訓を届けたいからです。
私がマッチングアプリを始めたのは、社会人3年目の秋でした。毎日忙しい仕事の中で、自然な出会いなんて期待できないと判断した私は、効率を求めてアプリの世界へ足を踏み入れました。最初は単純でした。「プロフィールを完璧に作って、マッチした人には丁寧なメッセージを送る。それだけで上手くいくはず」と。
私は営業職だったこともあり、コミュニケーションには自信がありました。相手の心理を読み、言葉を選ぶことなど、朝飯前だと思い込んでいました。だから、第一メッセージにも気合を入れました。相手のプロフィールの細部まで読み込み、完璧な文を作成していたのです。
「完璧さ」がもたらした返信率の低さ
私が送っていた第一メッセージはこんな感じでした。
「○○さんのプロフィール、拝見させていただきました。△△という趣味をお持ちなんですね。私も実は興味があり、最近は□□という本を読んでいます。良かったら今度ご一緒に……」
丁寧です。相手のプロフィールをちゃんと読んでいます。でも、実は、これが大きな間違いでした。後になって気づいたのですが、この完璧さは、相手に「重たさ」を感じさせてしまっていたのです。
返信率を計算してみたら、約15%。100人にメッセージを送って、15人からしか返信がなかったのです。これはおかしい。私の営業成績は30%を越えていたのに。なぜマッチングアプリではこんなに低いのか。何週間も悩みました。
友人の指摘がくれた衝撃
答えは友人から指摘されました。仲の良い女友達に、冗談半分で「私のメッセージ、変ですか?」と見せたのです。彼女は一読して笑い出しました。
「これ、仕事だ。これ、営業トークだ。相手の女性は、営業されてる気分になってるんだよ」
その言葉が、私の頭に衝撃を走らせました。確かに、私は営業のテクニックを使っていました。相手のプロフィールを細かく読んで、相手が喜びそうな話題を用意して、一足飛びに会う約束を取り付けようとしていた。それは、営業そのものです。
相手は、営業を受けたいわけではなく、素の人間と繋がりたいのです。完璧さは、その「素さ」を奪っていました。
実験的に送ってみた「手を抜いたメッセージ」
その日から、私は実験を始めました。意識的に「完璧さ」を手放し、シンプルなメッセージを送ってみたのです。
「プロフィール見ました。〇〇が好きなんですね。私も好きです。よかったら話しませんか?」
シンプルです。ちょっと乱暴ですらあります。営業時代の私なら、こんなメッセージは「雑だ」と批判したでしょう。でも試してみたら……返信率が20%になりました。
さらに実験を続けました。絵文字を使ってみたり、質問を投げかけてみたり、時には完全に無視しているメッセージも送ってみました。相手は誰もが同じではなく、それぞれに異なる好みや価値観を持っていることに気づき始めました。
メッセージのテンプレート化の落とし穴
「型」に嵌めることの問題点
さらに気づいたのが、テンプレート化の危険性です。私は試行錯誤の中で、「返信率が高いメッセージのパターン」をいくつか作ってしまっていました。それを毎回流用していたのです。
パターンA:質問を2つ含める(返信率22%)
パターンB:褒める→質問する(返信率18%)
パターンC:自己開示→共感を示す(返信率25%)
最初は効果的でしたが、そのうち、返信率が低下し始めました。おそらく、相手たちが気づき始めたのです。「この人、テンプレートを使ってるな」と。
あるマッチ相手との会話で、実際に指摘されてしまいました。「なんか、メッセージの流れが他の人と似てる気がする」と。その時の恥ずかしさといったら……。私は、効率を求める余り、相手を一個人として扱っていなかったのです。
返信の遅さという新たな問題
次に直面したのは、返信のタイミングの問題です。最初、私は返信を急ぎすぎていました。メッセージが来たら、すぐに返信していたのです。それが「重い」と言われたことがあります。一度は、返信を意図的に遅延させてみました。24時間待ってから返信するという作戦です。
すると今度は、相手から「返信遅いですね」という指摘が。結局、そのバランスが相手によって異なることに気づきました。ある人は即返信を喜び、ある人は適度な距離感を求めていました。
長すぎるメッセージの落とし穴
営業職の私は、詳しく説明することが大事だと思っていました。だから、メッセージも長くなってしまっていました。複数の話題を盛り込み、相手の興味を引き出そうとしていたのです。
でも、相手は忙しい。スマートフォンで、短時間でさっと読めるメッセージを望んでいました。特に、女性ユーザーの中には、長いメッセージに圧倒される人が多かったようです。
ある時、マッチ相手から「メッセージ、もう少し短くしていただけませんか?」と言われました。その時は悔しかったですが、実は、これが大切な気づきでした。相手を尊重するとは、相手の時間と心理的負担を尊重することなのです。
ネガティブな話題が招いた失敗
弱さの見せ方の失敗
中盤戦で、I試した戦略がありました。「親近感を作るために、弱さを見せよう」という作戦です。営業研修でも聞いたことがあります。完璧な人間より、人間らしい人間の方が信頼されるという理論です。
だから、私は初期メッセージから弱さを見せてみました。「実は仕事がストレスで……」とか、「人間関係が複雑で……」といったネガティブな話題をさらりと挟み込みました。
結果は散々でした。返信率は一気に10%以下に下がってしまいました。後から分析してみたら、初期段階での過度なネガティブは、相手に「重い」という印象を与えるのです。まだ見ぬ人間のネガティブな話を、見も知らぬ相手から聞かされるのは、気が進まないということでした。
適切なタイミングの重要性
弱さを見せることが悪いわけではありません。タイミングが問題だったのです。その後、ある相手とのメッセージが進み、実際に会う段階になってからストレスの話をしたところ、相手は「そういう一面もあるんですね」と受け入れてくれました。
つまり、信頼関係があってこそ、初めて弱さが親近感に変わるということです。初期段階でやるべきことではなかったのです。
失敗から学んだ、本当のメッセージ術
「聞く」ことの重要性
失敗を重ねた後、私が辿り着いたのは、とてもシンプルな原則でした。それは、「話すより聞く」ということです。
相手のプロフィールに何か書いてあったら、それについて質問する。相手の返信に何か書いてあったら、それに興味を持つ。つまり、相手を知ろうとする姿勢を持つことです。
これは営業とは違います。営業は「相手を動かす」ことが目的ですが、マッチングアプリは「相手と繋がる」ことが目的なのです。その違いが、全ての出発点でした。
自然さを大切にする
完璧さを手放すことで見えてきたのが、「自然さ」の価値です。テンプレートを捨て、その時々で思ったことをそのまま送る。文法が完璧でなくても、自然な表現の方が好まれました。
「これ面白いですね」という素朴な感想の方が、「このような事象は多くの人々に支持されているようですね」という完璧な表現より、ずっと相手の心に届くのです。
相手によって変わることを受け入れる
すべての相手が同じメッセージスタイルを好むわけではありません。ある人は長めが好きで、ある人は短めが好き。ある人は即返信を望み、ある人は適度な距離感を好む。その違いを受け入れることが、メッセージ術の本質なのです。
つまり、「正解」なんて存在しないのです。あるのは、相手を尊重し、相手の反応に耳を傾け、柔軟に対応する姿勢だけです。
今の私のメッセージ術
失敗を通じて身につけた、今の私のメッセージ術は、とてもシンプルです。
まず、相手のプロフィールを読んで、一つ興味を持った点について、素朴な質問をする。相手からの返信が来たら、その返信をちゃんと読んで、新しい発見や共感点を見つける。そして、それについて自分の思いを素直に伝える。
長さはその時々で変わります。気分や相手のテンポに合わせて。返信のタイミングも相手を見ながら。テンプレートは使いません。一度のメッセージも、一度きりの会話として大切にします。
この姿勢で臨むと、返信率は確実に上がりました。それだけでなく、返信をもらった時の喜びも違います。相手が、私という個人に返信してくれている実感が生まれるのです。
マッチングアプリが教えてくれたこと
マッチングアプリでのメッセージ術の失敗は、私に大きな気づきを与えてくれました。それは、対面でのコミュニケーションにも応用できる学びです。
営業時代、私は「正しい技術」を磨くことに注力していました。でも、本当に大切なのは、相手を一個人として認め、尊重する姿勢だったのです。技術は、その姿勢の上に成り立つものに過ぎません。
完璧さを求めすぎて、人間らしさを失ってはいけない。効率を求めすぎて、相手との関係を損なってはいけない。テンプレートに頼るなら、相手を個別に見つめる力を失ってしまう。
今、私はマッチングアプリでの出会いを続けています。相手が見つかった時も、見つかっていない時も、このシンプルな原則を守ることで、充実した時間を過ごしています。失敗から学んだことは、人生における最高の資産だと感じています。

